アメリカ大統領ジョーンズ・ウッズは、狂気の決断を下した。
北朝鮮へのレーザー攻撃を受けて開かれたブリーフィングは、かつてない沈鬱なものになった。
最早、国々が“銀河連合”との条約締結に向かうのを止める手立ては何もないと思われた。
攻撃衛星の全てを失った今、上空からのレーザー光線を防ぐすべはなかったし、アメリカ本土への攻撃も想定される時に“銀河連合”に接近する国々を制圧するための兵力を展開させるわけにもいかなかった。
大統領のブレインと呼ばれる者たちの提案は、どれも等しく絶望の毒に侵されていた。
その中で、大統領が採ったのは、ザニコフ陸軍大将の意見だった。
「私は、決断した」
大統領は、疲れ果てた、しかし決意に満ちた表情で口を切った。
「これは、戦争である。
敵が圧力をかけてくるときに、動揺し、団結を失うことこそ最も恐れるべきである。
我々は前線から逃げる者の背中に銃を向け、軍規を正さねばならない。
進むべき方向を失った獣に鞭を入れ、道を示さねばならない。
私は史上最も愚かしい決断をした大統領として歴史に名を残すかもしれない。
しかし、それが何だと言うのか。
我々が人道的に振舞っている間に、「人類の歴史」など、宇宙から消し去られてしまうというのに!
ここに、私は、平壌への核攻撃の実施を決定する」
小演説は、小さなざわめきを持って迎えられた。
「宇宙からの攻撃は恐怖かもしれないが、我々のほうが現実的な恐怖であることを、世界に教えてやるんだ」
ザニコフ将軍が誰にともなく言った。
「声明を発表しますか」
報道官らしき人物が大統領に訊いた。
「声明は、攻撃の後でいいと思う。宇宙人の攻撃の象徴となったあの廃墟を完全に消し去ってから、・・・そうだな・・・」
大統領は少し考えてから
「これは世界に対する警告である。今後、“銀河連合”と条約を締結した国家、個別に交渉した国家は全て、地球への反逆者と見做す。
「と、こんな感じでどうかな?」
と、彼に応えた。
「わかりました。原稿をすぐに作成します」
報道官らしき人物は席から立ち上がりかけた。
「大統領」
外相が、囁いた。
「平壌はまずいです。今、ホテル廃墟付近には各国の記者が集まっています。確か、赤十字も現地に向かっているはずです。
核攻撃となると、巻き添えは避けられません」
「ならば、どこがいい」
「平壌の北西ですが、確認されている軍事施設があります。そこなら・・・」
大統領は少し目を瞑って考えた。
「・・・やはり、平壌にしよう。
マスコミや赤十字に犠牲者が出ようが、いいじゃないか。
私は、世界の頬っ面を張ってやろうと言っているのだ」
大統領の決定を受け、即座に日本海に展開中であった原子力潜水艦「ノースカロライナ」に、巡航ミサイルの発射が命令された。
ミサイルは、大きくうねる冬の日本海から、飛沫をきらめかせながらよく晴れた朝の空に飛び出していった。
目標は、いまや本当の廃墟と化した柳京ホテル。
到達までは、約1時間の予定であった。
・・・つづく
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
- 2007/08/23(木) 15:29:02|
- 猪野熊アース
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