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素見歓迎  *ハ リ ミ セ*

自作小説発表ブログ

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名も無き館の殺人

 「車が無くなってるぞ!」
木谷が玄関ホールに駆け込んで叫んだ。


 部の合宿でやって来た学校の“研修施設”は、ゴシックホラーに出てきそうな洋館だった。
なんでも、旧華族の誰某が大正時代だか昭和初期だかに寄付した建物だとか。
無気味な外観と老朽化の目立つ設備が大方の部員には不評だったが、柾木だけはご満悦の様子だった。
「これで山道が崩れて洋館が孤立したら最高だな」
「あと、密室の中で死人が出たら、だろ?」
柾木の本格推理好きを知っている木谷が言う。
「ああ、それは是非そうあるべきだね。それで僕が皆をホールに集めて言うんだ。あのセリフを」
「爺っちゃんの名にかけて?」
「『犯人はこの中に居ます』だよ、当然」
「お前が殺されてなきゃね」
勿論、ただの冗談だった。この時は。

 翌朝、館内に電気が供給されていないことに、ドライヤーを使おうとした女子部員が気付いた。
続いて、管理人の吉田さんの姿が部員達の送迎に使われたワゴン車とともに消えているのが明らかになった。
唯一の固定電話は断線したのか不通で、山奥であるこの施設周辺は携帯電話も使えない。
「おい、ほんとにお前好みの展開になってきたみたいだぞ」
木谷の皮肉に、柾木は満面の笑みで応えた。
「オラ、なんだかワクワクしてきたぞ!」

 「キャー!」
状況が掴めないので誰もがだらだら過ごしていた午後、館内に絹を裂くような悲鳴が響いた。
皆、割り当てられた個室から廊下に飛び出した。
男子連中が先頭に立って一階に下りると、キッチンの方から女子部員が一人走ってきた。
「山田先輩が!山田先輩が殺された!」
その言葉を聞いた木谷が咄嗟に振り返ると、柾木は湧き上がる笑みを噛み殺そうと、おかしな顔になっていた。

 「君達がキッチンで食糧をあさっていたところ、突然吉田さんが部屋に入ってきて山田先輩に襲いかかった、と、こう言うんだね?」
すっかり探偵気取りの柾木が状況を聞き取る。
「とにかく、現場に行ってみよう」
殺人者が居るかもしれない部屋に向かって、柾木は平然と歩み出す。
この男は、探偵役は絶対殺されないと本気で信じているようだ。
仕方なく数人の男子が手に武器になりそうな木切れなどを持って後に続いた。

 キッチンには誰の姿も無かった。
山田先輩の姿さえも。

 「遺体消失か」
柾木が呟く。
「あ、あたし、ほんとに見たんです!山田先輩を吉田さんが…」
女子部員が必死に主張したが、その必要は無かった。
遺体こそ無かったが、キッチンの床には、これが一人の体から流れ出たのならとても生きては居られないであろうと思われる量の血液がこぼれていたのだ。

 「吉田さんが山田先輩を殺して、遺体を運び去った?」
「いや、違うな。足跡を見てみろ」
いよいよ探偵役が板についてきた柾木が、床を指差す。
血溜りから歩み出す赤い足跡は二つ。違う靴型で一方は窓へ、一方は倉庫に続くドアへと向かっていた。
「二人?吉田さんの他にも共犯者が?」
「ふふふ」
柾木が不敵に笑った。

 「まあ、探偵というのは証拠をつかんでから悠々と謎解きを始めるべきもので、先走って予想や推測を述べるもんじゃあないんだが」
我慢が出来なくなったようで、柾木は一人で語りだした。
「殺害現場を誰かに目撃させておいて遺体が消失した場合、十中八九被害者は生きている。これは、吉田さんと山田先輩の共謀による狂言殺人だ」
「まあ、そうかも知れんが」
他に誰も聞いていないようだったので、仕方なく木谷がツッコむ。
「一応目撃された殺害の状況も聞いとけば?」
「ま、そうだな」

 「いきなり、窓から吉田さんが入ってきたんです」
「何か吉田さんに変わった様子は?」
「顔色が蒼くて、服がボロボロでした。あ、血もついてました」
「殺害方法は?」
「噛み付いたんです。山田先輩の首筋に!」
恐ろしい出来事を思い出したせいか、女子部員は気を失ってしまった。

 窓の外に吉田さんが居る。
山田先輩も居る。
その他にもボロボロの身なりに蒼い顔で血まみれの数人が。
部屋に立て籠もった部員の生き残りのほとんどは、絶望に表情も失っていた。
さすがの柾木も、疲れた表情で言った。
「本格推理かと思ったら、ゾンビものかよ」
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