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素見歓迎  *ハ リ ミ セ*

自作小説発表ブログ

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リービング・メッセージ

 「で、あたしに何の用だって?」
「うん、実はちょっと見てもらいたいものがある」
俺は、学食の喫茶コーナーで板倉麻美にケーキを奢っていた。
板倉女史は物理学教室に身を置く才媛であるが、見た目キャバクラに勤めてるんじゃないかしらんというギャルである。
同じクラスなので、教養の頃はよく一緒に飲んだし、中身は理系らしいさばさばしたアンちゃんだと分かっているのだが、こうしてお茶の席に誘い出したりすると、未だに変な緊張をしてしまう。

 俺は前置きなしに、彼女の目の前に一枚の紙切れを置いた。
なにやら可愛らしいキャラクターが薄く印刷された、ファンシーなメモ帳の1ページである。

340702.0710

その紙には、そんな数値だけがポツン、と書かれていた。
メモ帳のデザインに似つかわしい可愛らしい丸文字、細身のサインペンの筆跡である。
「何これ」
学食とはいえ侮れない味のクラシックショコラ(きめ細かくしっとりとしたスポンジに、香り高くビターなチョコレートがたっぷり練りこんである絶品!)を一口コーヒーで流し込んで板倉女史が言った。
「これは、ある女性が書き残したものだ」
「君の部屋に?」
「まあ、そんなとこだ」
「ラブホね」
コーヒーを口に含んでいたら、『ブッ』と吹くシーンだ。
「…」
俺が何も言わずに居ると、彼女はそれを了承と受け取ったようだった。
「で?」
これが何?という眼で俺の顔を見る。
「この、10桁の定数の正体を、君なら知ってるんじゃないかと思って」
「10桁の、定数。」
女史が、ゆっくりと繰り返す。
「340702.0710、一般的な書き方をすれば3.407020710掛ける10の5乗。こんな中途半端な定数、生物学の範囲では思い浮かばなかったから、君に聞いてるんだ」
実際には、サボリ学生の俺には生物学の範囲の定数だったとしても分からなかったろうが…、とにかく板倉女史は見かけによらず秀才なので、数学か物理学の定数ならば、見るなり解ると思ったのだ。
「彼女とは連絡取れないのね?」
女史は定数の事には触れず、至極当たり前の事を聞いてくる。
取れれば、もちろん本人に聞くさ。
「そう、いつ掛けても話中。異常な状況だ」
「で、柾木君はどう解釈してるの?その…『異常な状況』を」
こういう外見の女子が苦手な俺の考えすぎかもしれないが、どうも板倉は既に何かに気付いていて、俺をからかっているような気がする。
俺は咳払いを一つして話し始めた。
「笑うなよ?あくまで最悪のケースを想定してるんだからな」
俺の念押しに、「最悪のケース」と極々小さな声で復唱して応じる。
ますますイヤミな態度だ。
「あの娘は、日本人にしか見えなかったが、実は某国のスパイで、この大学で研究されている何かを盗むべく俺に近付いた。が、何らかの理由でその陰謀を断念し、俺にそのヒントを残して姿を消した。…とか」
女史はクラシックショコラの小さな欠片を口に運びながら聞いている。
なんだか楽しそうだ。
「その、『何らかの理由』ってのは、君に惚れちゃった事?」
「そうは言わないが…まあ、あるいは…」
「で、その定数を見れば、君なら陰謀の正体に気付くと思って、彼女はメモを残したと」
「そう…なんだけど、俺には分からないから君を呼んだんだ」
くくく…、と、遂に彼女は笑い出した。失礼な奴だ。
「とんだ専門違いの学生を誑しこんだのね、そのスパイちゃんは」
俺はきっと、そこで真っ赤な顔になっただろう。
「何だよ、答えが分かってるなら言ってくれよ」
ふう、と彼女はため息を一つついて、
「あのね、君はこれを彼女が君に分かるように書いた、と思ってるけど、逆ね」
「分からないように書いた?」
「うーん、それも違うか…。『どうせ分からないでしょ?』て気持ちで書いた、が正解かな」
確かに分からない。
「あのね、きっと君はその娘にひどい事したんだよ。そしてその事に気付いてさえいなかった」
「な、なんの根拠があって…」
動揺して、いい感じにどもってしまった。
「これね…」
彼女は、定数の下に何か書き始めた。

 3  4  0  7  0  2   .   0 7  1  0
 サ ヨ オー ナ 零  ニ ドット 泡 ナ イ 輪

「何?」
ますます顔が赤くなるのが解る。
「サ・ヨ・オ・ナ・ラ・ニ・ドト・アワ・ナ・イ・ワ」
板倉はコーヒーの残りを飲み干すと、立ち上がった。
彼女のスカート丈はテーブル上2cmだ。つい、ちらっとそこに眼をやってから顔を見上げる。
「人の心が解らない自己中心な理系学生は、それを見て物理学辞典でも引くと思って書いたんじゃない?彼女は」

 板倉は、ゴチソウサマ、と紅い唇を動かすと、夕日の荒野へ去って行った。
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