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素見歓迎  *ハ リ ミ セ*

自作小説発表ブログ

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ご利用は計画的に ~「書きコミュ」 『ご利用は計画的に』という題名で~

 「奴等は、裏切り者の処刑に2種類の毒物を使う」

 ドイツ諸侯国に起源を持つ、ある非常に古い秘密結社への潜入捜査を行うため、俺は2年間全く別の人物に成りきって暮らした。
訓練の最後に、本部長が変装して俺の仮の住処に現れ、俺に腕時計を渡して言った。
「奴等は、文明以前の闇の時代から連綿と、2種の猛毒を使い続けている。テトロキシ重合サチルドン酸、別名「赤い死」と、トリ燐酸エチルホミン、別名「青い死」だ。どちらの毒も、非常にゆっくり、しかし確実に人を死に導く。
 これらの毒は、それぞれたった一つしか解毒剤を持たないが、この腕時計にはその両方が仕込んである。文字盤の縁を右に回転させれば「赤い死」の解毒剤が、左に回せば「青い死」の解毒剤が腕の静脈に注入される仕掛けだ。
 問題は、この解毒剤はそれ自体猛毒で、体内に毒が入ってない状態で使用すると、死ぬ、という所なんだ。
 しかし、この2つの毒への中毒は、はっきりした自覚症状を伴う。
 「赤い死」を飲んだ者は動悸が激しくなり、全身から発汗する。手足が震える。「青い死」は、頭痛、眩暈がし、目の焦点が合わなくなる」
俺はそれぞれの毒の症状を憶えた。
「2種の毒は互いに働きを阻害し合うので、同時に用いられることはない。
 もし毒を盛られたと思ったら、自分が飲まされたのがどちらの毒か落ち着いて判断して、解毒剤を飲んで欲しい。
 正しい時に正しい薬を飲みさえすれば、死ぬようなことは無い」
「もし正体が見破られていたら、毒から逃れても生きては居られないでしょう?」
「まあ、そうだが、奴等はこれらの毒に自信を持っている。生き延びれば脱出のチャンスもあるだろう」
そこで、初めて彼は笑った。
「まあ、今回は情報が漏れていないことに絶対の自信がある。君は疑われることすらないだろう。この腕時計は、単なる保険だよ」
 俺は、「今回は」の部分に少しだけ不安を感じた。

 「どうだね、今宵の晩餐は」
『一位の者』が言った。
「最高です」
俺は答えた。
1年余りの歳月をかけてゆっくりと結社に接近した俺は、ついに今夜、入会の秘密儀礼を経て正式に結社に迎え入れられたのだ。
晩餐は、俺以外の全員が仮面を着けたままであることを除けば、申し分無いものだった。
手間の掛かった贅沢な料理、いいワイン。
俺は、何年か振りに寛いで酒を飲み、笑った。

 「ハンス・シュタルテン」
『一位の者』が俺を『○○の者』ではなく、名前--勿論偽名だが--で呼んだ。
「楽しんでくれているかね」
「はい」
「何度も同じ事を訊く、と煩わしく思わんでくれ。私は心配なんだよ、君が…頭が痛かったり…手足が震えたり…汗ばんだり…動悸が激しくなったり…してはいないかと」
 俺は不意をつかれ動揺した。とは言え、演技を忘れて呆然としてしまう程ではなかったが。
「何ともありません『一位の者』、酒はいずれ私を毒すでしょうが、今ではありません」
「そうではないのだ、ハンスよ、この晩餐は心正しき者には旨し酒、旨し糧に過ぎぬが、二つ名を持つものには赤青の死をもたらす裁きの皿となるのだ」
「仰ることがよく…分かりませんが」
「君が心正しき者ならば、分からずともよい。我等を欺く者であれば、既にじゅうぶん分かっている筈だ」
俺は、曖昧な笑みを浮かべて肩をすくめた。
 いつの間にか、そこここで交わされていた雑談のざわめきが消え、会堂は静寂に包まれていた。
「はは、酒を不味くするような事を言ったな。
 気にせずどんどん食べてくれ」
俺は操り人形のような動きで…少なくとも、そんな気分で、料理に手を伸ばした。
さっきまで美味しかったものが、何の味もしなかった。
俺はそれが中毒症状の一つに無かったか、とぼんやり考えた。

心臓がどきどきしている気がする。だとすれば「赤」だ。
頭が痛い。これは「青」だ。

 落ち着け。
俺は考えた。
奴はまだ俺がスパイだという決定的な証拠を示していない。いや、そうと断定すらしていない。
これは試しているんだ。
奴等にも、確信があるわけではないんだ。
奴等の使用する毒物が分かっている以上、潜入者は必ず解毒剤を用意して来る。奴等はそれを利用して裏切り者だけを殺しているのではないか?
毒が入っていることを匂わせて、偽りの自覚症状を感じさせ、解毒剤を持つ者を自滅に追い込む手なのではないか?
俺は、無意識に腕時計をいじっていた右手を引いた。

 「解毒剤があるなら、飲んだ方がいいぞ」
『一位の者』が揺さぶりをかけてくる。
「解毒剤そのものが毒であることを利用して、我々が罠を仕掛けていると思っているのか?
 そんな単純なトリックに、君たちの仲間が残らず引っかかったと思うかね?」
「何を言っているのです?私は何も…」
「むしろ、彼等は君のように考えすぎて、自らの体の異変に気付かなかったのではないかな?」
そうかも知れない、いや、だとしたら奴等は“誰が潜入者か知っている”、解毒剤を飲んだところでいずれ殺されるのだ。
第一、こちらが解毒剤を持っていることを奴等が知っている以上、毒を生き延びても奴等に隙は生じない。無駄だ。見破られているという仮定に立っては、何の希望も見出せない。
「信じてください、私は無実です。毒が入っているなら、解毒剤を早くください!」
「二つの名を持つものよ、我等は裏切り者を殺すのに赤と青の毒しか使わん。もし君が正しい解毒剤を飲んで生き延びたなら、君は生きて帰されるだろう」
俺の心を読んだように、『一位の者』が言う。
解毒剤を飲むことに意味があると思わせたがっている。奴等は解毒剤を飲ませたいのだ。
死んだって飲むものか。
それとも、解毒剤を飲ませないために、わざと執拗に飲ませたがって見せるのか?
 不確実な推測は堂々巡りだ。
自覚症状の有無で決めなければ。

 ちりちりと鈴が鳴っている。
いや、フォークを持つ俺の手が震え、ボーンチャイナを鳴らしているのだ。
会堂が揺れている気がする。汗が背を伝う。腕時計の文字盤が二重に見える。
俺は、再び腕時計に右手を…
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