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素見歓迎  *ハ リ ミ セ*

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封霊探偵タカハシ 序

 先日、久しぶりに元同僚から電話があった。
とにかく使えない奴で、彼が辞めた時は正直ほっとしたものだった。
特に個人的に親しくしていた訳でもないので、「明日会いたい」と言われた時には、悪い考えが頭をよぎった。
新しい会社の営業で、何か売りつけるつもりじゃああるまいか、とか、まあ、そういう類のことだ。
しかし、結局僕は彼に会いに行った。
何故かって?
彼にどんな企みがあるにせよ、僕はそれに引っかからない自信があったからだ。
自分の能力を信頼してたわけじゃない。
彼の無能に確信を持っていただけだ。

 会社の近くのファーストフード店で待ち合わせた。
やがて現れた彼は、ワイシャツにカーデガンという、昼休みの市役所職員のような出で立ちだった。
油染みた感じの髪がやや乱れ、シャツにも良く見ると染みはあるし皺くちゃで、まともな生活を送っているように見えない。
落ち着きなく視線を周囲に走らせながら店内に僕の姿を探している。
そのままずっと挙動不審な彼を観察していたい気もしたが、結局僕は声をかけた。
「やあ、石瀬さん、おはようございます」
テーブル席である。当然正面に座るであろうと思っていたが、彼は僕の横にどすん、と腰掛けた。
途端にむわっ、と饐えた汗の匂いが押し寄せた。
 「あのね、石瀬さん。僕はあなたを信頼してるという訳ですよ」
かつて会社で毎日のように聞きながら聞き慣れるという事がなかった不明瞭な早口で彼は言った。
「僕はね、あの、社内の中ではいわゆる負け組グループ的なね、そういうラベルを貼られる会社員と思われがちなきらいがありがちですけどね、実のところ」
息を継ぐ間があって、
「僕の真の姿は、ある任務なんですよ、秘密任務。秘密なんですけどね、国関係の。国関係の秘密の部署に雇われている秘密工作員なんですよ、いわば」
僕は何も言わずに頷く。昔は無能なだけで壊れては居なかったのになあ、とぼんやり考えた。
「駅前第2ビルのチケットショップの横あるでしょう?何って、閉まったシャッターが。そうそう、JTBの前の。そこが秘密の支部なんですよ。自治省の。違うか、内務省の。何か、公安関係の部署ですよ。そこで雇われたんです。
 重要な秘密任務なんで、秘密なんですよ。ただの民間人のふりしなきゃいけない訳です。
 あなたの会社に居たときもね、その任務が気になって、仕事に身が入らないこともヤブサカでなくて、それで結果として僕自身無能社員というような立場に居た訳ですよ。
 でもね、僕はもう嫌だ。今こそ真実を世間に知らしめようと思った訳です。僕が無能だと思う人ばかりでね、もう、そんな人ばっかりで、僕はもう、不公平でしょう?」
何だか解らなかったが語尾が質問になっていたので、狼狽えつつも答を返そうと僕は口をぱくぱくさせた。
彼は構わず先に進む。
「もうね、ぶちまけます。僕の毎日の戦いの日々を、手記にして発表する訳です」
「シュキにすれば?」
思わず言ってしまった。
幸い彼は僕の言葉など耳に入っていないようだった。
「それでね、ご迷惑でなければ、僕の書いた手記をどこかに発表してもらいたい訳です」
「はあ?」
どこをどう考えればそんな面倒な事がご迷惑で無いかも知れないと思えるのだろう。
一瞬あっけにとられている間に、彼は鞄の中からノートを一冊取り出した。
「これが手記です」
彼の書く文章がどんなものか、僕は良く知っている。
少なくとも仕事上の文書では、非常に頼り無い日本語を書く男だった。
彼の書いた「手記」なるものを読んでみたいという好奇心に、僕は負けた。
ノートを開くと、
『内閣調査室付属(外郭団体)所属 心霊対策委員 佐藤 政義 手記』
と、ページの上に題名らしきものが大きく書いてある。
下に、『別名、封霊探偵』と小さく書き添えてあった。
「なにこれ」
「だ、題名」
「本名公表していいの」
「いいです。や、ま、まずいか。まずいでしょうか?どうしましょうか?」
「まあ、好きにすればいいですけど」
本文に目を通すと、
『近年の若者達は、非物質的なる存在や霊的存在を見落とし、ないがしろにし、強烈なしっぺ返しが待っている。
 物質世界の欲望に感性の鈍りたる愚者には到底気付き得ぬ深遠がある。
 私は、内閣府の依頼でいわゆる悪い霊と戦う仕事をしている訳だが、そこでも社会の歪みが作り出した現代社会の巨大なシステムの生み出した悪との戦いの毎日である。
 この度私は、孤独な戦いの日々の赤裸々な報告をすることで、現代社会に警鐘を鳴らし、私の日々の戦いと苦悩、哀しみ、真実を見てきたものだけが味わう深い悲しみの全てを、誰かに分かち合いたいと思い、この手記を書こうと思います。』
 『銀行には霊が多いことは周知の事実だが、決して郵便局も侮れない。郵便局は民営化し、ゆうちょ銀行と郵便局になったわけだが、ゆうちょ銀行の方がとりわけて特に霊が多い。
 私は定期預金を崩したいんですがと言った訳だが、霊の憑いている女は、通帳をお持ちで無いとちょっとお手続きでき兼ねますと言った。
 私は別にその定期が無くても当然生活に困ることはないのだが、母が私名義でしていた定期預金を私が崩すことを拒む社会に腹が立った…』
そこまで読んだとき、僕の手からノートが奪われた。
「引き受けてくれるんですか?」
佐藤が聞く。
部外者には読ませない構えのようだった。
「何で僕に持ってきたの、その、手記を発表しようって話」
彼は、暫く何も言わずにただ口の周りをぴくぴくさせていたが、やがて
「僕の文章って、難解すぎてわからないとよく言われる訳です」
と、語り始めた。
「それで、会社で文章書くのが上手いと言われていた石瀬さんに、普通の人が読みやすい文章に直してもらって、発表してもらおうと思った訳です」
「ああまあ、僕の文章はひらがな多いし、頭の悪い人にも読みやすいよね。意味も通ってるし」
「ほんとは、一般人が知ってはいけないことですし、悪用されたら大変なことなんですけど、石瀬さんは人柄も安心できると思って、見込んでのお願いです」
彼の、虚仮脅しの四字熟語や聞き齧りの言い回しを散りばめた、回りくどくて唐突で文法的に正しくない文章を果たして平易で簡潔なものに変換できるか?
また、それ以前に本当に彼の書いたものに意味や筋道があるのか?
不安は大きかったが、先程読みかけた支離滅裂な文章の続きが知りたいと言う欲求に負けた。
「わかった。引き受けよう」
ほっとした様子で表情の緩んだ彼の手から、僕はノートを取り返した。
「まずは大々的に発表しないで、僕の書いてるブログに上げてみよう」
「ありがとう、いいんだ、どこでも。ただ、僕と言う人間が密かに悪と戦って来た事を、この世に残して置きたかっただけだから」
これから死ぬ積もりかと思える発言だったが、変に聞き返して余計な相談を受けるのも嫌だったので、そこには触れずにおいた。
「じゃあ、この題名もわかりにくいから変えていいかな?
下に書いてあるこの『封霊探偵』てのが格好いいから、封霊探偵佐藤政義で…。うーん、佐藤か…。
なんかさ、秘密組織だったら、コードネームとか無いの?ホワイトファングとか、イーグルとか、新宿鮫とか」
「ああ、僕らの組織は、全員同じコードネームなんだ。高橋って言う」
「全員同じならコードネームの意味無いじゃないか。どうやって区別するんだよ?」
「名前が違うんだ。僕はエースだったから『高橋一郎』だった」
「あー、2番目に使える奴は『高橋二郎』だったんだ」
「いや、2番目は女子だったから『高橋不二子』」
「あ、そう」
いいオッサンが「女子」とか言うなよ、と思いつつ僕はノートを自分の鞄に入れた。
「じゃあ、題名は『封霊探偵タカハシ』でいいな?」
「うん」

と言う訳で、僕はここにその手記を発表していくことになった。
内容は彼の書いたまま(と、僕の想像するもの)だが、文章は僕が好きに変えさせてもらう。
事実に反する表現が含まれていても、それは佐藤のせいなので悪しからず。
それでは、佐藤政義(本名)(37才)原作、石瀬醒脚色、『封霊探偵タカハシ』の始まり始まり~
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[ 2008/08/25 11:09 ] 封霊探偵タカハシ | TB(0) | CM(0)
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