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素見歓迎  *ハ リ ミ セ*

自作小説発表ブログ

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太陽と北風の惨劇

 1908年6月30日、ロシアの森の上空で、北風と太陽が言い争っていた。
「僕は、何だって吹き飛ばせるんだ。僕のほうが力持ちだよ」
北風が頬を膨らませて言うと、
「それはどうかな。地上の全てを照らし出し、暖めている僕には敵うまい」
と、太陽は余裕で応じる。
「じゃあ、力比べをしよう」
「いいとも、ほら、丁度そこに旅人が歩いている。あの旅人の上着をどちらが脱がせるか、勝負だ」
「ようし、じゃあ、僕からいくぞ!」
北風は息を胸いっぱい吸い込んで、旅人に向かって冷たい風をぴゅー、と、吹きかけようとして、
止めた。

 相変わらずにやにや笑いを浮かべて見守る太陽の様子が気になったのだ。
なんだ?あの余裕は。
あんな布切れ一枚吹き飛ばすのなんて、俺には簡単だというのに、奴にはどんな勝算があるっていうんだ?

 北風は、今まで息を吹きかけてきたあまたの人間達の反応を思い返した。
どの人間も、それまで上着のボタンもかけていなかったのに、北風が吹きつけた途端に着物の前を合わせ、かたく襟元を握ったものだ。

 そうか、奴はそれを狙っていたのか!
北風は理解した。
自分がいくら物理的に上着を剥ぎ取ろうと力を注いでも、人間はそれに対抗して着物をしっかりと抑える。
さらに風が耐え難いほど強くなれば、物陰などに隠れてしまうだろう。
それに対して太陽は、人間が少し暑いな、と思う程度に日差しを強めるだけでよいのだ。それだけで、人間の方で勝手に上着を脱いでくれる。

 太陽の策略を見抜いた北風は、考えた。
果たしてこの勝負に勝つ方法はあるのか?
「おいおい、何を考え込んでいるのか知らないが、僕が沈んでしまう前に済ませてくれよ。それとも僕が先に試そうか?」
動きを止めた北風に、太陽が茶々を入れる。
それはまずい、と、北風は思った。
太陽が挑戦する前に何か手を打たなければ、負けてしまう。
最悪、太陽が日差しを強めても旅人が上着を脱がないようにする方法は無いものか?

 閃いた。
勝つ方法が。
少なくとも、太陽に負けない方法が。
爆発事故や竜巻の犠牲者が、裸同然の格好をしている事はよくある。
非常に強い風を受ければ、人間の服は確かに剥がれ飛ぶ。
そして、もしも上着が剥ぎ取れなくても、人間を吹き飛ばして、殺すか、意識不明にでもすれば、太陽の策略はもう通じなくなるはずだ。
北風は、改めて胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
限界を超え、顔が真っ赤になってもさらに肺に空気を詰め込んだ。
そして、一気に爆発させた。

 周囲の杉の大木が、放射状になぎ倒された。
旅人は10キロも飛ばされて、襤褸屑のように倒木に絡まった。
上着は、左袖の一部を残して消し飛んでいた。
「どうだい?」
北風が、まだ赤みの残る顔で太陽を振り返った。
笑顔が凍りついた。
そこに、鬼の形相の太陽がいた。
「ま、まだ、完全に脱がせていない。こんなんじゃあだめだね!」
太陽は吐き捨てるように言うと、旅人に向かって太陽フレアを吹き付けた。
旅人の肉体と、倒れた杉の木が一気に燃え上がる。
「何をするんだ!大火事になるだろう」
北風が慌てて止めるが、太陽は聞く耳を持たない。
「俺が上着を完全に消し去ってやる!全て気体になるまで燃やし尽くせば、俺の勝利だ!」
「わかった、わかったから。君の勝ちで良いから!」
いつも温和で大人な態度だった太陽のあまりの変容に、北風は恐くなった。
もう勝負などどうでもいい。いつもの太陽に戻って欲しい。
「君の勝ちだ。君が本気になれば、何もかも焼き尽くせる。とても僕の敵うところじゃないよ!」
懸命に山火事を吹き消しながら、そう叫んだ。
太陽が振り向いた。
もう、穏やかな笑顔に戻っている。
「そうかい?僕の勝ちかい?」
「うん。太陽君、君はある意味最強だよ」
「ははは、やだなあ、最強とか、照れるじゃないか」
太陽と北風は仲直りをした。



《ツングースカ大爆発》
1908年6月30日、ロシア帝国領中央シベリア、ポドカメンナヤ・ツングースカ川上流で起こった謎の爆発。
半径約30キロメートルにわたって森林が炎上し、約2,150平方キロの樹木がなぎ倒された。
隕石の空中爆発が原因とされているが、隕石の破片などは発見されておらず、未だにその原因については異説を唱える者も多い。
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天使のみつけかた

 「エンジェル・ハント作戦」
木谷が顔を近づけて言った。
「いいよ、そういう妙なネーミングは」
俺は奴を押し戻して言う。
「要は、ナンパだろ?」
「ちっちっちっ、違うなあ」
木谷はこの「ちっちっちっ」を、書いたとおりの声を出して発音する。
俺も正式な「ちっちっちっ」が、こう、と確信があるわけではないが、おそらく舌を鳴らすんじゃないのか?
「ナンパってのは、手当たり次第声をかけて、オトせる女子をオトすんだ」
一応うんうんと頷きながら聞くが、俺も木谷も「オトす」のイミを正確に把握してるかは怪しいもんだ。
勿論中三にもなれば、最終的に男女がどういう事をするかは分かっているさ。
けど、「オトす」ってそれとイコールなの?てトコはちょっと自信ない。
「しかるに、我等が『エンジェル・ハント』は、オトす事が目的ではない。むしろ、たとえ声も掛けられなくとも、我等の理想の女子を見つけることにその主眼がある」
大した内容も無いくせに、大げさな喋りをする奴だ。こういうのが将来政治家なんかになるんだろう。俺は日本の未来に軽く絶望した。
「何か、お前も言ってたじゃん。『近場で手を打つ』みたいな、のはイヤだって」
それはそうだった。

 事の発端は確かに俺の発言だったのだ。
「そろそろ俺等も、女友達とか作っとかなきゃいけないんじゃないかなあ、とか、思わない?」
そんな木谷の、探り探りの問いかけに、俺は素直に応えた。
「思わない」
「なんで」
「なんかさあ、それが自分の理想でもないのに、近所に住んでるから付き合うって、どうなのかなって」
地方都市の一中学生としては、何となく地元の同級生とくっつくというような地産地消的、鮎の産卵的恋愛は容易く受け入れがたいものだったのだ。
「大学とか行って、都会に出てからでいいじゃん」
「うーん」
木谷は腕を組んで考え込んだ。
「石田の言うことも分かる。気持ちは分かる。でもな、俺のオジさん、今34歳で独身なんだけど、その人の人生見てるとな、石田、大学入ってから頑張ったんじゃ遅いんだよ。それまでに女慣れとか、デートとか、やっとかないともう手遅れなんだよ」
そんなバカな、と思った。
思ったけど、そうなのかも、と不安にもなった。
おそらくそんな俺の顔を見て、いける、と思ったのだろう、木谷が笑顔で言った。
「よし、じゃあ、俺等の女慣れ作戦開始な!お前の意見も入れて、俺がいい計画考えといてやる」
それが「エンジェル・ハント作戦」らしい。

「で、天使探しにどこに行くって?プール?」
俺の言葉に木谷は大げさにがくっ、と首を項垂れる。
「春休みに市民温水プールに行ってどうすんだよ。歩いてるご老人と小学生以下の家族連れしかしかいないぞ」
「じゃあ、どこに行くんだよ」
「池袋」
俺は、特に口に何も含んでいなかったけれど勢いで吹いた。
「俺とお前で?」
「ムリだよな。そこで隣町のエオンにする」
エオンというのは、いわゆる複合ショッピングセンターというのだろうか、地方都市の一大レジャーランドである。
「地元じゃん」
「駅いっこ隣だろ!学区も違うし!」
「…」
「正直、第一回目だし、俺等その辺が限界じゃね?」
「…まあな」
ということで、俺と木谷は春休みのある日、隣町のエオンに繰り出した。

 「ゲーセンだろ」
「ゲーセンだろうな」
俺たちはまずゲーセンに足を向けた。
普段なら隅っこの格ゲーコーナーで、おとなしく二人対戦に興ずるところだが、今日は違う。
プリクラやクレーンゲームのある辺りで、女子グループを物色しなければならない。
俺達は周囲に目を配りながら、ぶらぶらとゲーセンの中をうろついていた。
すると、日頃楽しく遊ぶ場所にすぎなかったゲーセンが、危険な無法地帯へとその表情を変じた。
「あのチーマー風、こっち見てない?」
「なんか、あっちのグループも俺達に反感もってそうだね」
周囲の男子グループからの視線が痛い。
無理だ。こんな中で見知らぬ女子に声を掛けるなんて出来るわけがない。
「ちょっと、外へ出よう」
ほぼ小走りで俺達はゲームコーナーから脱出した。

 「ダメだね、あんな荒くれたトコでエンジェルが見つかるわけが無い」
なんだか弱いオス丸出しのダメダメ発言だったが、結論としては、俺も木谷に賛成だった。
「じゃあ、どこだろうな、次は」
「知的、てことでは、本屋じゃない?」

 俺達は本屋を出た。
「本屋で声は掛けられないよね」
「そうだね」

 何も出来ぬままただうろついて消耗し、俺等はハンバーガー屋にやってきた。
休日の夕方なので当然カウンター前は注文待ちの列ができている。
二人で並んでいると、木谷が言う。
「でもな、第一回としては、有用な情報を沢山得れたと思う。まあ、充分な成果はあったよ」
とにかく無駄に前向きな奴だ。
俺は何だか色々打ちのめされた気分だった。
何より、こんな不純な目的で一日を空しく過ごしたことに、自己嫌悪を感じていた。
やっと俺等の順番が来た。
「お持ち帰りですかそれともこちらでお召し上がりですか?」
「ここで食べます」
「お決まりでしたらご注文をどうぞ」
「えっと、ポークバーガーと…」
「石田君?」
「はい?」
思わず返事をして顔を上げた。
目の前にいるのは、見知らぬハンバーガー屋のバイトのお姉さん。

 「誰だよ今のお姉さんは」
席に着くなり木谷が聞いてきた。顔が近い。
「知らないよ、俺も」
とりあえず木谷を押し戻す。
「知らないわけ無いだろ、向こうはお前の名前呼んだのに。なんか、ちょっと派手だったけど、美人さんだったじゃんか!親戚か?」
「知らないってば」
本当に知らなかった。

 お姉さんは、俺が見返した時口元を手で押さえていた。
それはまるで『しまった、言っちゃった』というような仕草。
その後、お姉さんはそ知らぬ風に仕事に戻り、「ポークバーガーは只今お作りしておりますので、お席にお持ちいたします」と、俺達のトレイにプラスチックのマーカーを置くと、次の客の応対を始めてしまった。
説明なし。ヒントなし。
確かに木谷が言うように、あんな綺麗な人知り合いに居たら忘れるわけない。
俺は混乱していた。
「なー、本当に知らないの?忘れちゃったのか?思い出せよー」
木谷はもう同じことしか言わない。
「お前の返答次第では『エンジェル・ハント計画』そのものを根本から見直さねばならなくなる」
何を言ってんだか。
「それにしてもあんな綺麗なお姉さんを…」
木谷が黙った。
奴の視線を追って俺が振り返ると、噂のお姉さんがポークバーガーを持ってきていた。
マーカーを取り、バーガーを置く。
「ごゆっくりお召し上がりください」
言ったまま、しばらく笑顔で俺の顔を見つめる。
一拍あって気付いた。…質問タイムだ!
「あ、あの、なんで俺の名前知ってるんすか?」
「アタシ、美香の姉なの」
ややかぶせ気味にお姉さんが答える。
「美香?」
木谷が先に理解した。
「宇都宮さんのお姉さんですね」
確かに、彼女の胸の名札に『アルバイト・宇都宮』とある。
宇都宮美香?確かにうちのクラスに居たような…。
「でも、なんでお姉さんが俺の事知ってるんすか?」
体育祭でも見に来たのか?いや、だとしても憶えられる程の活躍をした記憶は無い。
宇都宮のお姉さんは、うーん、と斜め上を見て考える素振りの後、悪い笑顔になって、「ま、いっか」と呟いた。
「あのね、うちの美香、石田君のこと好きなんだわ」
「えーっ!」
と、叫んだのは木谷。
俺はちょっとその瞬間口が聞ける状態じゃあ無かった。
お姉さんはその隙に「じゃね」と軽く手を振って行ってしまわれた。

 「宇都宮って、地味な子だよな」
木谷が言う。
「そうだよな」
俺が応える。
宇都宮美香とフルネームで聞いても、細い後姿とおさげ髪しか浮かんでこない。
「でも、高校行ったらああなるんだぜ」
と、お姉さんのいるカウンターの方を指差す。
いやいや、それは違うだろう。
「でも、お前は地元民同士の恋愛はしないんだったよな?」
「あー、まあ、そう…だな」
「なんだよ、気になってんの?」
「ん?別に…」
「仕方ねーなぁ…『エンジェル・ハント作戦』終了か」
「いや、別に終わらなくてもいいんじゃないか?少なくとも…、その…お前は」
歯切れの悪い俺の発言にかぶせて木谷が言った。
「俺、あのお姉さん狙っちゃっていい?」
俺は感動した。
木谷に変な気を遣っていた自分の人間の小ささを恥じた。
お前は大物だ、木谷!
「ああ、ぜひ頑張ってくれ、できれば俺の見てる前で見事砕け散ってみせてくれよ」

落人梅

 寒村、と言うとまだ生ぬるい。
廃村としか見えない山あいの集落、それがお祖父ちゃんの住む時坂村だった。
僕がここに来たのは十年振りくらいだろうか。
先日いきなりお祖父ちゃんから、小遣いをやるから顔を見せに来い、と電話があったのだ。
丁度パソコンを買い換えたかった僕は、二つ返事で「行きます」と応えた。
父からはよく、爺さんの住む村は現金収入のほとんど無い僻地だ、と聞かされていたので、どこから金を手に入れたんだろう、と、電話を切った後で不思議に思ったものだ。

 自分の運転で時坂村に来るのは初めてだったが、所々未舗装になる曲がりくねった細い道には薄っすら記憶があった。
ただ、以前父に連れられて来た時には一台の対向車も見なかったのに、今日は宅配業者のトラックと二度も行き違いをせねばならず、往生した。
村の人が通信販売で買い物をしているのだろうか。
だとすれば、お祖父ちゃんの羽振りの良さといい、現金収入の無いはずの村で不思議な話だった。
もしかすると開発話でも持ち上がって、村に金が落ちたのかもしれないな、と思った。

 村の外れまで来ると景色が開ける。
山の斜面に梅林が見える。
梅は村の唯一の特産品だ。

 確かここの梅は『落人梅(おちうどうめ)』と呼ばれている、そう聞いた気がする。
なにか、梶井基次郎めいた恐ろしげな謂れがあったような記憶もある。
ふと、梅林の中央に盛り土のようなものがあるのに気付いた。
そこだけ下草が生えていない。
大きさは…丁度人一人埋めたくらいか。
…まさかね。

 「落人梅の由来?」
夕飯時、梅干を見て思い出した僕はお祖父ちゃんに聞いてみた。
「前にも言ったろうが。なに、小っちゃ過ぎて忘れてしもうたか。
 じゃあまた教えてやろうかの。
 この村はの、平原から沢沿いに山に分け入った奥にあるから、昔から戦がある度に落ち武者や、焼け出された分限者が逃れてきたんじゃ。
 ワシらはそれを決して戦の勝者に突き出したりせず、いつも匿う振りをしては身ぐるみ剥いで梅林に埋めた。
 その度に村は少しだけ豊かになって、梅は少しだけ味を上げた。
 そうして数百年かけて育てた梅の木じゃから、あの梅を落人梅、と言うんじゃ」
僕は丁度、大粒で肉厚な梅干から真っ赤な果肉を毟り取った所だったが、口に運ぶのを止めて箸を置いた。
「伝説でしょ?そんなの。ほんとだったら怖すぎるよ」
「伝説なもんか。大袈裟に言ってるんでもない。全部本当の話じゃ」
「古文書でもあるの?」
「古文書なんぞ無くてもな、たまにお前の親父みたいに出て行く者はおっても入ってくる者の無い里じゃ。代々の昔語りは昨日あった事のようにどこの家にも伝わっておるわい」
「ああ、昨日の事って言えばさ」
僕は食欲のなくなる伝承から話題を転じようと、思いついたことを言った。
「今日、来る途中で梅林を見たらさ、最近出来た風な盛り土があったんだけど、まさかその風習今はやってないよね」
『今時落人なんてもんがおるか』とか『ははは、真に受ける奴があるか』とか、そういう様な答えを期待していたのだが、お祖父ちゃんからは何の返答も帰ってこなかった。
沈黙に耐えかねた僕は、テレビのスイッチを入れた。
僕の『時坂村開発話説』を裏付けるように、お祖父ちゃんの家には真新しい大型液晶テレビが据えられていた。
夕方のニュースが流れてくる。
『2億円を強奪した犯人の行方は未だに掴めていない模様ですが、その後の警察の調べにより、時坂村方面に逃走したことが確認されています。現在、捜査本部では…』

ラブ・コンテンツ

 「結局、男前はモテる訳だよ」
そんなありきたりな言葉に有沢が口を開く。
「よく、男がモテる条件として金と見た目を並べるけど、マーケティング的に考えるとその二つを並べるのはおかしい」
また始まった、と思いつつも滝野は黙って続きを待った。
「男女のパートナー選びを商業活動と捉えた場合、どちらかが売り手でどちらかが買い手だ。
 売り手は買い手に魅力的なコンテンツを提供する。
 人間の提供できるコンテンツと言うのがどういうものかは、バラエティータレントの“売り”を考えてみてくれれば分かる。
 『話が面白い』『性格が誠実そうだ』『天然ボケだ』、どれも、金を払って手に入れる価値のある“コンテンツ”なんだ。
 そして、言うまでもなく、『顔が綺麗』とか『スタイルがいい』も、そうした“コンテンツ”の一つだ。主要な一つ、と言っていい」
「実際の付き合いには、『お金持ち』ってコンテンツもあるだろう?」
「おっと、先走りなさんな」
有沢が待ったをするように手をかざす。
「金を持っているというのは確かに魅力だが、それは売り手としてじゃあない。買い手として、だ。
 魅力的なコンテンツを提供できる者を、金を持つものが手に入れる。これがマーケティング的に見た恋愛だ。
 従って、『男前』と『金持ち』は並べるべきものではない。一方は売り物で、他方は買い手の資質なんだ」
「さみしい話だな…」
「勿論、互いに互いのコンテンツに引かれた物々交換的カップルも存在するだろう。
 芸術家同士、競技者同士、趣味人同士の結びつきなんかはそうだね。
 君が他人のコンテンツを“買う”ことに抵抗があり、自分の顔が魅力的なコンテンツではないという自覚があるなら、自分のコンテンツを磨くしかないね。なに、珍しいことじゃない。モテたいからバンド始めるとか、お笑い芸人目指すとか、そういうことだ」
「俺が提供できるコンテンツ、か…」
「無ければ、買い手に回ることだな」
滝野は、しばらく考えて
「ツッコミが上手い」
と言った。
「せいぜい活発に合コンして、いいツッコミを探してる女子と出会うことだね」
[ 2010/05/05 14:54 ] etc | TB(0) | CM(0)

わたしはだれでしょう ~タイトル指定作文~

 やわらかく冷たい掌が僕の目を塞ぐ。
次いで、笑みを含んだ幼い声が言う。
「わたしはだれでしょう?」
こういう時とっさに素直になれたことのない僕は、出会って以来数十回目の失言を放つ。
「チビポチャ希少動物?」
途端に小さな両の中指が眼球をぐっと押す。
「はずれ。チビでもポチャでもありません」希少動物なのは認めるんだ。
「イテテテ、やめろバカ、眼圧が高まる緑内が悪化する!」
手を剥がそうとするが、意外な程の力で締め付けるそれは容易に放れない。
「お母さまの病気をネタにするんじゃありません!」
鋭い叱責が飛ぶ。
「もう一度。わたしは誰?」
「自分の胸に訊いてみろ!あ、無かったか」
「あります!身長比で考えれば十分過ぎるほどに!」
言葉と同時にさらに眼球に痛みが走る。
「イタイ!本当に潰れる!はじけとぶ!」
「大丈夫。眼球が破裂しても網膜や角膜に傷がつかなきゃ視力は戻るって」
「そんな『ジョジョ』で得た豆知識アテになるもんか。この、サイズも性格もドS女!」
さらに指が眼球にめり込む。
「荒木先生が間違ってるかどうか試してみましょうか?」
痛みが本当に耐え難いものになった。
「ま、待て、待ってくれ。
 もし今後一生何も見えなくなるのなら、最後に一目、この目に焼き付けておきたい人がいるんだ」
「だれ?それは」
「小さくて可愛い、僕の最愛の人。三城青葉ちゃんだ」
手の力が、ふっ、と緩んだ。
僕は目隠しをひっぺがし、振り返った。
「はい、正解」声が聞こえた。
「あなたが最後に見たがった、とびきり可愛い女の子は、ここにいます」
最後の意地で付け加えた『小さくて』はごく自然に『とびきり』に掏り替えられた。
「どうしたの?泣いてるの?わたしが見られてそんなにうれしい?」
きっと、その時の彼女は、とびきり、の笑顔だったのだろう。
残念ながら、僕の視界はそれを見分けられないほどぼやけていたが。


 「ねえ、今日わたし何か変わったトコない?」
2時間後、彼女が聞いた。
「え?いや、別に…相変わらずだよ」
一瞬、眉間に縦皺が見えたが、珍しく聞き流して「良かった。成功したんだ」と彼女は言った。
「成功?何?」
ふふふ、と唇に手を当て、
「実は前髪切りすぎちゃってさあ、ちょっと恥ずかしかったんだ」
そんなの言われなきゃ分かんないよ。
「視力奪っておいて、良かった」
彼女の笑顔は、とびっきりだった。

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