空想科学駄文蔵

自作小説発表ブログ
内容についてはツッコミ待ちです。
事実関係の誤認や文法関係の不備はバシバシコメントでツッコンでください。

猪野熊アース 1-1

 宇宙からの侵略は、驚くほどあっさりと始まった。
2009年11月7日、日本時間9時32分11秒、地上のほとんどの国のテレビの地上波が、あらゆる周波数帯で同じ番組を流し始めた。
明らかにCGで作られた各国の支配的民族の容貌の男性が、流暢な各国語で同じ内容を語り始めた。
「日本の皆さん」
日本向け放送はこう始まった。
「我々は銀河連合政府です。
我々は、銀河系全体の発展と協調のために、優れた文化と良識を持った貴国に、銀河連合政府への参加を強く望みます。
我々は国際連合その他の組織に対して、地球人類全体に対する包括的条約の締結を望むものではありません。
これは、あなた方日本国政府と日本国民に与えられたチャンスです。
我々は日本語で書かれ、日本人に理解可能な条約を公開します。どうか冷静で合理的な判断を下し、ともに発展の道を歩もうではありませんか。
あなた方に選択可能な道は二つです。
銀河連合への参加か、消滅か。」
そこで放送は途切れ、通常のテレビ番組が何事もなかったかのように再び始まった。

 その数秒後から、大混乱が始まった。
全ての放送に視聴者からの問い合わせが殺到し、携帯電話は今しがたの出来事を誰かに話したい人の通話で回線がパンクした。
しかし、マスコミにもネット上にも確かな情報はひとつもなかった。
ただ、アメリカ政府だけは、放送の始まる数分前に全ての攻撃衛星が連絡を絶ったことと、上空約1000kmの高度の数千箇所から同時に、地上に向けて指向性の強い電磁波が射出された事実を掴んでいた。
それから約40分後には、地上の全ての政府に対して、宇宙からの訪問者との単独交渉を禁止するという政府の基本方針が決定された。
そして、各国政府に「国連決議が出るまで一切宇宙との交信を禁止する」という「臨時国際連合代表代行」からの通達を出すとともに、ヒューストンの大出力レーダーを、先ほどアメリカに向けての放送の出力があった地点のひとつに向けて、大統領の声明を送信した。
「我々地球人類は、すでに単一の政治的主体を確立しており、交渉はその窓口である国際連合、またはアメリカ政府のみを対象にしてもらいたい」

…つづく
  1. 2007/08/18(土) 15:12:11|
  2. 猪野熊アース
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猪野熊アース 1-2

 スズキは、いつものように自宅の前に立ち尽くしていた。
自宅と言うのは、シュロの葉で屋根を葺いた、丸木作りの南国風コテージのことである。
彼は肉食獣の原形を留めた毛皮のみを纏い、右手には木の根で作ったような棍棒を持っている。
ふと気付くと、すぐ横に宇宙服を着た宇宙人が居た。
「こんにちわ、スズキさん」
宇宙人が話しかけると、メッセージがあった事を示す効果音がスズキの中の人に「ポポン」と聞こえ、スズキは意識を取り戻す。
「やあ、カゼッタ氏」
カゼッタと呼ばれる宇宙人キャラの登場で、スズキの中の人は会社のPCの前で、椅子に座りなおして身をのり出した。
「君は、本物だったんだね。…それとも、彼らと連絡手段をもっているのか」
「私が宇宙人、と言うことに関しては本当です。そして、それは地球にメッセージを送った者達と連絡手段をもっているということでもあります」
「なるほど…君と彼らとは違うグループに属しているということかな?」
「グループとかそういうものではありませんが、我々も人数が多いので、交渉担当者たちが何をしようとしているか、全て私にわかっている訳でもない、ということです」
「なるほど。じゃあ、君の担当部門はなんなんですか?」
「レスが早いですね、今日は」
カゼッタのグレイタイプ宇宙人の顔が、苦笑いの表情に変わった。
「そりゃあ、『自称宇宙人』のニート相手のチャットと、本物の宇宙人の一人との歴史的会話じゃあ、こっちのテンションも変わろうってもんだよ。
「それに、あの放送からこっち、会社の上司も気もそぞろで、仕事の進捗を気にして覗きになんてこないからね」
「給料泥棒ですね」
「今月末の給料が出るなんて誰が保障してくれる?…そうか、君ならわかるのか?」
「さあ、私は交渉担当でも、軍事部門に詳しいわけでもありませんからね」
「ふうん…。君は、業務の合間にPCの隅に小窓をあけてオンラインゲームをしてるサボリ社員って訳か?
「!…大体君はどうやってネットに参加しているんだ?君は地球人に化けてすでに地球に潜入しているのか?」
グレイの顔が笑いに変わった。
「キョロキョロ周りを見回したりしないでくださいよ?スズキさん。
私は地球外から、ある方法で地上の個人の無線LANに侵入し、そこからネットに参加しています。
『地球人に化ける』とか、無理です。少なくとも我々の文明では」
スズキはしばらく沈黙していた。
「すると」
スズキの会話ウィンドウに再び文字が描かれ始めた。
「君がネットに参加しているのは、何らかの装置を使った大掛かりな作業と言うことだね?単に、君が正規の業務の合間にしている、ということじゃなく」
「そうですね。
これが私の業務なんです。日本の、インターネットからの情報収集というのが」
「なんだと!まずいな…僕は何か人類が滅びるような情報を君に流してしまってないか?」
「安心してください、スズキさんからは有用な情報は何も得ていませんよ」
「ならいいんだが…
だったら、なんで僕と会話をしてるんだ?
というか、何故僕に『自分は宇宙人です』とか、『11月7日に重大な発表があります』だとか言ったんだ?
僕が政治的な有力者だった場合、そういった情報を漏らしたことは、君の重大な失策にならないか?」
「それはそうです。でも、あなたは政治的有力者ではないでしょう?
…それとも、そうなんですか?」
「いや、」
「よかった。」
「で、何故僕に接触したんだ?」
「う〜ん…」
珍しくカゼッタが黙り込んだ。
「単に、参加したかったんですね」
「この、オンラインゲームに?」
「というか、この事態に。
情報を流したのは…自己顕示?ですか。
『宇宙人降臨!』て扱われたかったんですよ」
「君個人が?ネットで?」
「そう」
「ダメ宇宙人だな」
「ダメ宇宙人ですね」
会話に落ちがついて、つかの間沈黙が流れた。
「で、君たちの目的はなんなの?
『君たち』銀河連合とか名乗ってたけど、どのくらいの星が参加してるの?」
カゼッタは答えない。
「また闇落ちか…なんか、電波の関係かな」
しばらくすると、切断されたコネクションがタイムアウトを過ぎても再接続されないことに気付いたサーバーが、スズキの傍らに固まっていたカゼッタの姿を消去した。
スズキは、自宅の前で無表情に立ち続けていた。

…つづく
  1. 2007/08/18(土) 15:13:37|
  2. 猪野熊アース
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猪野熊アース 1-3

 壁の一面を埋め尽くすモニターのほとんどに一昔前のニュース番組のような映像が流れていた。
それらは、セットもカメラアングルも、キャスター風の男性の服装も全く同じだった。ただ、明らかに3DCGとわかるその男の風貌だけが、モニター毎に異なった民族のものになっていた。
11月7日の、いわゆる“最初の接触”映像だった。
残りのモニターには生身の人間が映っていた。
彼/彼女らはカメラに向かって話しかけている。
アメリカの制止にもかかわらず、独自に“銀河連合”に返答した国々の映像だった。
地上波ジャックという形で届けられたメッセージに対して、応える方法を他に持たなかったのだろう。殆どの国が地上波のテレビ放送で彼等に応えた。
北朝鮮とイランが独自の、機密の保持された交渉ラインの開設を求めたが、それに対して“銀河連合”は、
「全ての交渉はオープンに行いたい。我々は互いに二重外交の余地を残したくない」
と、地上波ジャックで回答した。
また、“最初の接触”直後になされたアメリカの「独自回答」に対しても、地上波で
「地球人が単一の強固な政府を持っているという貴国の主張は、大きく現実の国際情勢からかけ離れたもので、到底受け入れられない。
「貴国のそのような発言は、地球上の他の国々の自由な意思決定を妨害し、既存の自国の覇権を護ろうとするものとしか考えられない。
「今後も、貴国が地球上の各国に対する高圧的且つ独善的態度をとり続けるなら、我々は武力を行使してでも他の国々の自由を擁護せざるを得ないであろう」
と、明らかに世界の目を意識した返答を返していた。

 “最初の接触”から2日目にして、世界の関心は「宇宙からの侵略」がどのようなものになるか、ではなく、“銀河連合”への加盟を表明して、国連軍(and/orアメリカ軍)の攻撃を受けるような事態になったとき、“銀河連合”は助けに来てくれるのか、そしてそれは間に合うのか、または、裏切り者国家が雪崩をうって“銀河連合”にひざを屈するのを、止める手立て(核攻撃も視野に入れて)はないものか、というところに移っていた。

 外務事務次官高橋孝太は、モニターに繰り返し映される映像をぼんやり見ながら、一昨日の会議の様子を思い出していた。
防衛事務次官、雨木という男、油断ならない男だ。
彼はこのような世界の動きを予想していた。
 首相、防衛大臣、外務大臣、各事務次官、それから内閣府の者らしい高橋の知らない三十代の男が二人、そんなメンバーが、“最初の接触”放送の30分後には官邸に集まっていた。
高橋は密かに、変事が日本時間の9時台に起こってくれたことに感謝した。外務大臣の岡本という男は、会合などで酒が入るとブレーキが利かず、ともすればそのまま夜の街に行方をくらましがちだったからだ。
携帯の電波の届かない店で飲んでいる大臣を探して、裏路地を駆けずり回ったことが、高橋には一度ならず有った。
 会議の冒頭で、高橋は、各国の日本大使館からの報告によって放送が世界規模で同時に行われたことを確認したと告げた。
そのことから、これが単に国内のテレビ放送に対する悪戯というようなものではないと結論付けられた。
また、国際的テロ組織の犯行であるという可能性も捨てきれないが、用いられた技術の高さ等から考えて、一応「宇宙から」の訪問者がそこにいるという前提で対処をすることも決定された。
「日本としては、宇宙人との平和的外交という路線の中で共存の道を探すべきではないか。
「まずは、より詳しい情報を得るために、『共に栄える道を探しましょう』というような、漠然とした回答を発表したらどうか、と思います」
と言った首相に対して、
「それは、もう少しお待ちいただきたい」
と、皮椅子に身を沈めたまま、雨木防衛事務次官が言った。
顔と言い、のっそりとした物腰と言い、穴の中の蟇蛙のような男だ。
それが、細い目の奥の小さな瞳を首相に据えて言った。
「もし、宇宙人がすぐに軍事行動を取らないのなら、むしろ恐るべきはアメリカです」
全ての目が彼に向けられた。皆、彼の次の言葉を待った。
「今回の宇宙からの放送で、宇宙人は『国単位の交渉』ということを強調しました。
「これでは、うまくいってもアメリカ、イギリスは、イランやパキスタンと同じ身分で宇宙人の武力の傘の下に入ることになります。現在の軍事的優越が、(ここで雨木は、手で何かを払いのけるような仕草をした)消えてしまいます。
「まずくすると、反米勢力が宇宙人と結束して復讐戦を挑んでくる…アメリカはそれを恐れているはずです」
「すると、どういうことだね」
首相が組み合わせた手の上から雨木を覗き見て言った。
「宇宙人に対して、何らかの返答を行うのはしばらく見合わせて頂きたい。
「アメリカはきっと、宇宙に対する情報封鎖をもくろむはずです。
「わが国としては、アメリカの行動に追随しつつ、なんとか独自に“銀河連合”と連絡を取る方策を探し、来るべき新たな世界のバランスの中で、他に抜きん出る道を探るべきかと思います」

アメリカからの通達が届いたのは、その直後だった。

・・・つづく
  1. 2007/08/18(土) 15:14:20|
  2. 猪野熊アース
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猪野熊アース 1-4

 その男の肩の筋肉は異様に盛り上がっていた。
黒人のようだったが、背中にJAPANと書かれたバレーボールのユニフォームを着ている。
敵チームのアタックを後衛が受け、セッターが高いトスを上げた。
男の血走った目がボールを見据えると、両腕を後ろから前に振り戻し、跳んだ。
男は、膝がネットの高さを越えるほど、跳びあがった。
弓なりに力を矯めた男の体から、一瞬右腕がかき消すように見えなくなった次の瞬間、殆ど一つに聞こえる二度の爆音と共に、ボールが敵陣の頭上高くに舞い上がった。
男の体は、ボールをコートに叩きつけた反動で、さらに少し浮いたように見えた。
敵のブロックは男の腰のあたりまでにしか届いていない。
「おおお」
佐藤は思わず声をあげた。
男が、床板を大きく揺らしながら着地した。
「すごいですねぇ」
いつの間にか、佐藤の肩越しにモニターを覗き込んでいた長谷川が言った。
 ここは、ゲーム会社NAGOMの研究室である。
佐藤の机の上には、“運動シミュレーター開発研究部”というプレートがぶら下がっている。
“運動シミュレーター開発研究部”とは、佐藤を部長に、長谷川、塩見という若手(実年齢24〜28だと、佐藤はぼんやり認識している)プログラマーからなるチームである。
佐藤と長谷川が今見ているのは、佐藤が遊び半分、プレゼン目的半分で作ったバレーボールシミュレーターだった。

 スポーツは、ゲームであると同時に文化である。
これが佐藤のかつての研究のスタートラインであった。
ゲームであるとはつまり、ルールの範囲内でプレイヤーの自由は保障され、勝利を得るためにどんな戦略をとることも許されているということ。
文化であるとは、ゲームの基本的な戦術や動きが、先人の動きを見覚えることで、価値判断抜きに次の世代に受け継がれていくきらいがあることである。
例えば、相撲が深く腰を落として上体を起こした姿勢を基本とするのに、レスリングは腰を高く保ち、上体を水平に近く倒して構える。これは、単にルールの違いから来る相違だろうか。元々の民族的な“姿勢の文化”がそれに影響してはいないだろうか。
佐藤は、そうした“動作の文化”の影響なしに、ルールのみからスポーツを評価しなおしたとき、今あるものとは全く違った戦術が見つかり、全く違ったタイプのトレーニングをした選手が求められるようになる可能性があるのではないかと考えた。
そして、そうしたスポーツの別解を見つけることを究極の目的としたシミュレーションソフトの開発に着手した。
プレイヤーの一つ一つの筋肉の動きまで計算する、究極のシミュレーターの開発はしかし、終わりのない作業になるかと思われた。
その間に京都大学理学部院生だった佐藤は、日本体育大学助教授に招かれた。
その後も、数々の優れたスポーツシミュレーターを、試作版という形で生み出しながらも、スポーツの“別解”は、彼が最も簡単だと思っていた卓球においても見つけることはできなかった。
そして、佐藤は3年前、彼が34歳の時に、スポーツゲームの製作協力を頼まれて一緒に仕事をしたこともあるゲームメーカーのNAGOMへの転職を決めた。
そこで彼のソフトは、様々な怪物じみたキャラクターたちの動作と、最適な戦術をリアルに描いてみせた。
しかし、最近彼は、ただ動きのリアルさや、臨場感を演出するだけのシミュレーターの使用に飽きてきていた。
彼は雑務(詰まらない業務を彼はそう呼んでいた)の合間に、新プロジェクトのプレゼン用に、と、ドーピング・スポーツシミュレーターを作った。
もちろん、様々な薬品の各種器官への副作用と、それによる選手の動きや外見の変化は可能な限りリアルに表現されるように作ってある。

「人間の動きじゃありませんねえ・・・これは、現存する薬品しか使っていないんですか?」
長谷川が聞いた。
「もちろん、ただし、選手の健康状態を考えるならとても投与できないような処方にしてある」
と、モニター中央のウィンドウに映っている、先程超人的な動きを見せた黒人選手が、突然体を強張らせ、棒のように横様に倒れた。
「おや」
長谷川は素早くモニターのデータ表示ウィンドウに目を走らせ、
「死にましたね」
と言った。
「心臓に負担をかけすぎたか…爆発的だったんだけどなぁ」
小さく溜息をつくと佐藤は、動かなくなった選手を映しつづけるモニターから目を上げて長谷川に言った。
「こういうゲーム性なんだけどね」
「売れないでしょう」
長谷川が言下に切り捨てた。
「そうかな」
「いや、皆が買わないという意味じゃなく、死なない程度にドーピングさせて、強いチームを作るというテーマが、マズいでしょ。売り出せませんよ」
「そうかなぁ・・・面白いのに」
「そりゃ、僕も面白いと思うし、こうやって目の前で選手が死ぬのを見ると、むしろドーピングはいけないことなんだな、と思いますよ。
でもね、子供なんかは確実に『やっぱ、ドーピングやらなきゃ勝てないよなぁ』とか思うでしょ」
「それがね、狙いでもあるんだけどね。ドーピングは危険だけどすごいぞ、と。
このソフトが安全なドーピングのガイドラインを作る助けになればいいな、なんて思ってる部分もあるわけなんだけど・・・」
「無茶言いますね、佐藤さん」
長谷川はうれしそうに笑いながら言う。
「佐藤さんが大学教授だったなんて信じられないっすよ」
「助教授だけどね。
口に出す出さないはともかく、何でも面白いと思う人間でなきゃ研究者にはなれないと思うけどなぁ」
「学者は皆マッドサイエンティストなんですか」
「いや、そりゃあ良識もあるに越したことはないけど、それは人間として必須なのであって、学者に必須というわけじゃないから・・・」
「でもね、佐藤さん」
長谷川がわざとらしく声を低めて言った。
「これからは、vs宇宙人のシミュレーターでしょう」
「それねぇ・・・」
佐藤が、モニタに視線を戻して応えた。
「データがないからねぇ」

・・・つづく
  1. 2007/08/21(火) 08:34:42|
  2. 猪野熊アース
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猪野熊アース 1-5

 空が一面の緑色に光った、と、それを間近に見た人は後に語った。
よく晴れた、星のきれいな夜だった。
背の高いピラミッド型のホテルの、薄茶色い壁面が、眩い緑色に光った次の瞬間、ホテルが爆発した。
実際には、はじけ飛んだのは光の当たった面のコンクリートの表層だけだったようで、粉塵がキノコ雲状に巻き上げられると、鉄骨をむき出し、窓から白い煙を上げるホテルが未だ建っていた。
一瞬置いて、白い煙が炎に変わった。
建設途中で放棄されたホテルの中の何が燃えるのだろうか、ホテルは所々から黒煙を上げながらくすぶり、やがてゆっくりと一方に傾き、崩れ始めた。
ぼろぼろと砕けゆくホテルの上で、キノコ雲が上空からの光を受けて緑色に輝いていた。

11月7日から4日経ち、“銀河連合”の動きのないまま、世間では株の大暴落やインフレ、金の高騰などが話題になっていた。
世界中が水面下のあれやこれやで忙しい中、北朝鮮が“銀河連合”への声明を発表した。
「宇宙からの同胞諸君」
朝鮮中央テレビの男性アナウンサーが、力強く呼びかけた。
「我々は、主体思想を理解するいかなる種族とも、共に闘う用意がある。
翻って、我が民族の自由と独立を暴力をもって抑圧しようという試みは、3千万人民の最後の1人に至るまでの徹底的抵抗に遭い、必ずや粉砕されるであろう。
同胞諸君、共に闘おう。
もし、諸君が革命に忠誠を誓うのであれば、我々の宇宙的団結は、必ずや我々を勝利と栄光に導くであろう!」
“銀河連合”からの返答は、異例の素早さでもたらされた。
「本日午後7時、柳京ホテル周辺には近付かないようにするのが賢明である」
CGキャスターは、流暢な朝鮮語で、簡潔にそれだけを言って消えた。
 その夜、平壌高麗ホテルから柳京ホテルを狙ったカメラは、天空から伸びた緑の光が、シンボリックなその建造物を明るく照らし、次の瞬間には飴細工のように溶かし去るのをはっきりと捉えた。

 4時間後、4日ぶりの世界同時放送があり、“銀河連合政府”と地球の各国が結ぶべき修好条約の内容が明かされた。
日本向けの放送は以下の通り。

一、銀河連合政府の艦船は、いかなる時も自由に日本国領空内を航行できるものとする。

一、日本国の持つ全ての軍事施設、兵力の所在を明らかにし、今後、銀河連合政府に無断での運用は一切行わないものとする。

一、日本国政府は、日本国領土の50分の1程度の土地を銀河連邦政府施設用地として、銀河連邦政府に無期限貸与することとする。

一、日本国政府は、銀河連邦政府施設整備のための資材、エネルギーの供給については、出来得る限りの協力を行うものとする。

・・・つづく

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/08/22(水) 15:53:06|
  2. 猪野熊アース
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